異文化を超えて生きること

株式会社三井物産戦略研究所 所長
寺島実郎氏

 同時通訳級の語学の達人といわれる人でも、微妙なニュアンスを伝える語学力の難しさに溜息をつく思いだという。異文化の中を行き来している我々が常に感じるもどかしさも実にこの語学の壁である。冷や汗ものの失敗の体験など枚挙に暇ない。

 限界を感じつつも、このところ強く感じるのは、語学力というのは、タクティクスではなく「伝えねばならぬメッセージ」をどれだけ深く考え抜き、持っているかにかかっているということである。適当にごまかさずに、自らの知識や認識を充実させ、的確に伝えようとする意思がなければ意思疎通は深まらない。

 鈴木大拙が英語で説明しようとした「禅」が示唆的である。彼は51歳になってから本格的な学究生活に入った。それまでの10年以上は「洋行帰りの英語教師」にすぎなかった。研鑚を通じて、東洋思想の真髄を西洋思想との対比において説明するという、至難の作業に立ち向かった。単なる英語使いではない人間としての内実を志向した大拙の意思を感じるのである。